下描きの絵画を渡す設計

住宅の竣工は終わりではなく、始まりだと考えています。住宅は生活することが目的ですから、竣工は通過点に過ぎないという考えです。ですので、竣工後の変化を前提とした設計を心がけています。竣工が100%で劣化の一途をたどる住宅は本質的ではない気がします。竣工が60~80%(場合によってはもっと低い)で生活していく中での必然や変化に対応させていきながら、永い年月を掛けて完成に向かうことが望ましいと考えています。

世の多くの住宅は、完成し過ぎていると感じます。設計段階で机上で全ての未来予測をすることは不可能です。決定できないことは決定しないで、暮らしながら決定したことに対して手を加え、徐々に完成させていくことが住宅らしいと感じるのです。

(1枚目/HOUSE-NN竣工時・2枚目/HOUSE-NN竣工1年後)

絵画でいうなら、世の多くの住宅は、完璧な完成品を渡している感覚です。私は少し違っていて、下描きの状態で渡してしまう感覚です。大きな方向性を示すために下描きは描いた状態で渡す。お客さんは線を加えたいと思ったら線を加える。色を付けたいと思ったら色を加える。額縁もつけない。基のキャンバスに別のキャンバスを加えて、絵を広げていってもよいかもしれない。そうして永い年月を掛け、その家族らしい絵画が完成していく。

私がイメージしているのは、そのような設計で、それくらいの自由度というか、変化を前提とし、許容した基盤の設計に徹底した方が、豊かで伸びやかな本質的に住宅らしい住宅になるのではないかと考えています。