抽象的な説明と具体的な説明

先日、とある建築サイトのインタビューを受けました。仮の自邸である加藤小屋に関するインタビューだったのですが、その中で「自邸が完成したことで変化したことはありますか?」という類の質問を受けました。あまり考えていなかったことだったので、少し悩みましたが『具体的な説明をする材料ができたことは大きい』と答えました。

最近、強く思うことなのですが、人を説得するとき、抽象的な説明を具体的な説明に落とし込むことが重要だと感じています。抽象的な説明のみだと、話し手の頭の中ではポジティブなイメージを連想していても、受け手の頭の中ではネガティブなイメージを連想していたりする。お互いの頭の中の画像が一致していない状態に陥ると誤解が生まれる可能性が高くなります。そのイメージの乖離を防ぐ手段として具体的な説明が必要だと感じるのです。

私は、自身の住宅に関する持論を説明する際〝荒い〟〝ラフ〟〝世の中の住宅は綺麗過ぎる〟等と表現することがあります。少し過激な表現のせいか、イメージが乖離することがあるため、誤解が生まれることも多くあります。仮の自邸である加藤小屋は、極端なローコストであるため、全てのエッセンスを詰め込めているわけではありませんが、自身の住宅論を反映させたものになっています。その自邸で打合せを行いながら「今、私が説明したことはこの加藤小屋の中で言えばこういうことです」と全く同じものを見ながら説明をし、具体的なイメージを共有できたとき、言葉の理解度や説得力が高まると感じています。勿論、それに共感頂けるかどうかはまた別の話ではありますが、私の真意を理解して頂けた上で話が進められるので、方向性を見定める時間が早くなります。実作の写真等で説明してもよいのですが、やはり実空間で体感して頂いた方が伝わり方に違いが出ます。自邸という自身の思想を実践している、いつでも案内ができる場所があることは具体的な説明をする上で大きいことなのかもしれません。

かといって、常に実空間で説明ができるわけではありません。そのような説得の際に私が活用するのは〝例え話〟です。お互いが共有できる話題に置き換えて、説明をすることは効果的だと感じます。ハウスメーカーと設計事務所の違いをカレー屋で例えることもありますし、ローコスト住宅の見せ方をユニクロの着こなし方で例えることもあります。専門的な内容をお互いが頭の中で同じ画像をイメージしやすい話題に置き換えることにより、理解度は上がると考えます。ですので、色々なものを体験しながら、会話をしながら、見ながら、聞きながら「これは、あの話に置き換えられそう」等と常にアンテナを意識的に張りながら過ごすよう心掛けています。

いくら良いアイディアやイメージを持っていても、それを伝える技術がなければ、無いのと一緒だと考えています。自身の考えがより正確に伝わること、また、相手の伝えたいことをより正確に共有することは、建築設計に限らず大切なことだと感じるのです。