HOUSE-N|とあるNくんの話

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Nさん家族が良き土地と巡り合い、先日、売買契約が完了しました。

他人行儀に〝Nさん家族〟等と書いていますが、実は、主のNくんは、高校のクラスメイトです。もっというとクラスメイト等という浅い関係ではなく、いわば親友です。少なくとも私はそう思っています。

そんな彼は、漠然と「都内に戸建住宅を建てたい」と考え始め、私のところに半年程前に相談にきました。私なりに戸建住宅を建てる手段、方向性、資金計画、住まうことへの価値観等を彼に伝えました。その相談を終え、彼が出した答えは「建売住宅を購入する」ということでした。

予算は決して多いとはいえない状況だったので妥当な選択だったと思います。しかし、個人的な感情ですが、私に依頼する云々は置いておいて、彼には建売住宅やハウスメーカー等のセミオーダー的な注文住宅ではなく、例え、狭小でもローコストでも設計事務所で純粋な注文住宅を建て、彼らしい生活を家族と共に営んでほしいと思うのが実のところでした。それが一番合っていると思っていましたし、一番彼らしいと思っていました。

その気持ちは、全てでなくとも言葉にして伝えました。しかし、彼の価値観を否定するわけにはいきません。住宅に正解はありません。唯一ある正解は「この家最高!この暮らし最高!」と住まう当人達が思うことだと思っています。それならば、Nくん家族がよりその正解に近付けるように協力したいと思い、彼と一緒に建売住宅を探すことになりました。

彼が広告等を私にメールを送り、居住性や周囲の環境等のメリット・デメリットを挙げ、彼に伝えるという日々が始まりました。結構な数の案件を互いに精査したと思います。時にはボロクソに言ってみたり、時には私が太鼓判を押した案件が1週間前に売れてしまっていたり。そんなやりとりが1ヶ月程続きました。そんなある日、彼が「建売住宅なんてどれも変わらないな。見るの飽きた。」と言ってきました。しかも、いつの間にか狭小住宅を建てた人のブログを見て心を揺さぶられていました。

注文住宅の可能性も含め、方向性を見直そうと、再度、彼は相談にきました。しかし、その時点で彼の中では9割方「注文住宅を建てる」という方向にシフトチェンジされていました。相談の内容はというと「この予算で建てれるのか」ということでした。具体的な金額までは勿論言いませんが、都内に戸建を建てるには正直厳しい金額ではありました。しかし、そこは設計事務所の腕の見せ所です。土地の選定から予算のバランスを考え、面積や仕様等を調整しつつ、アイディアを出し、コストコントロールをしていけば、可能な金額だと思えました。そして、その日から、建売探しではなく土地探しに彼とのやりとりは移行しました。

とは言ったものの、低予算で土地の購入をする為には、完璧な条件が揃った敷地は手に入れるのは厳しいのが実状です。何かしらのデメリットを孕んでいながら、住まう考え方や設計の力で解決をできるような敷地を模索しなければなりません。彼から土地広告をメールでもらい、互いに精査し、気になる案件があれば現地見学をする。その作業を繰り返しました。時には「これは面白い敷地だ!」と思ったものが行政の怠慢により、諦めざる負えない状況になったり(詳しくはBLOGの「豊かで理不尽敷地」をご覧下さい)。時には資金計画のことで苦労したり。私のPCの〝候補敷地〟というフォルダには気付けば50件程の土地広告が入っていました。

色々な苦労が約5ヶ月の間にありましたが、先日、ようやく良い土地と巡り合うことができました。敷地は高台に面する新興分譲地であり、ロケーションを売りにしていました。しかし、そのロケーションが冷静に見るとそれほど良くない。ならばあえて高台に面していない売主としてはデメリットと思っている為、価格を安く設定している土地を選択しました。新興分譲地なので、古くからそこの地域にいる人の中に入るのではなく、新しく住まう人達によって地域性を一から構築できるというメリットがありますし、東側は隣地の専用通路が6M(3Mの2敷地分)ある為、将来的にその部分は空地であることが予測でき、東側の日照は確保できます。コストを含め色々なバランスが良い敷地だと感じました。

平凡ですが「点が線になり、線が面をつくる」と言葉があります。土地購入に至るまで、色々な巡り合いがありました。言い換えればそれは〝縁〟だと思います。その〝縁〟はこの言葉でいう〝点〟だと言えるのではないのでしょうか。私もその〝点〟を出来る限り多く残したい思っています。そして長い年月を掛けて、Nくん家族が線を引き、面といわず素敵な絵を完成させてほしい。そう願っています。

こんなことをいうのは気恥ずかしいですが、私は、彼のことが好きですし、彼の奥さんのことも、彼の子供のことも好きです。いってみればNくん家族が好きです。その家族の家を設計できるというのは非常に幸せなことです。設計者として、そして、一人の友人として、これからも尽力していきたいと思います。