〝YESマンにならない〟というルール

設計が始まる前にクライアントとあるルール付けをしています。それは〝YESマンにならない〟というルールです。お互いに何でも言い合える関係でないと良い住宅はできないと思っています。

私達の仕事はクライアントの話を聞くことから始まります。色々と話を伺った上で、私は〝仮説〟的に提案をすることが多々あります。それはあくまで最善の解答に辿り着くまでの〝仮説〟です。それに対し、違うと思った場合、正直に「NO!」と言ってもらえないと勘違いをしたまま、提案をし、間違った解答に辿りついてしまいます。ですので、例え、私が数日間徹夜をし、考えに考え抜いた提案であろうと嫌なものは遠慮なく「NO!」と言ってほしいのです。

〝YESマンにならない〟というルールはクライアントだけの一方的なルールでなく、私のルールでもあります。言葉は悪いかもしれませんが、クライアントは、プロではありません。〝素人〟です。要望が全て的確でその通り設計していけば、最高の住宅が建つかというとそうではありません。要望には絶対的に矛盾が生じます。それらの矛盾を整理し、全体のバランス見極めることも私達の仕事です。ですので、バランスが崩れること、機能性やデザイン性に支障が出るような要望が出た場合には、理由を説明し、言葉を選んだ上で「NO!」とはっきり言います。

私は、クライアントの要望通りに設計を進めることが全てではないと思っています。勿論、要望を無視するという意味ではありません。要望以上の提案をすることがプロの仕事であり、大切なことだと考えています。その為に私が心掛けていることがあります。それは要望の〝理由を聞くこと〟です。要望通りの内容を満たそうとすれば、解決方法は1択しかありません。しかし、要望の理由を聞けば、その解決方法の選択肢は増えていきます。その中でクライアントにとって最善の解決方法を提案していきたいと思っています。そのような作業の繰り返しの結果、要望以上・想像以上の住宅の提供が可能になるのではないでしょうか。

設計者とクライアントという垣根を越えた、何でも言い合える友人のような関係が理想的だと思っています。そのような関係を築く為には、設計のスキルだけでなく、一人の人間としての魅力や人間力も鍛えないといけないですね。その類の努力も欠かさずにし続けていきたいと思います。